深い漆黒の肌に、時を経て現れた景色が静かに語りかける、加藤石春作の黒楽四方茶碗です。大正時代に手びねりで成形されたこの作品は、銘を「立田錦」と称し、秋の龍田川に散る紅葉を想起させる風雅な趣を湛えています。四方に歪んだ不定形の佇まいは、整然とした美しさとは異なる、侘び寂びの精神が凝縮された造形です。黒楽特有のマットな質感の表面には、窯変による淡い色彩の移ろいが浮かび上がり、まるで夜空に浮かぶ星々のような景色を見せています。共箱が付属し、作品の由緒を今に伝えます。

詳細
加藤石春は、美濃焼の産地で活躍した陶芸家であり、楽焼の技法を研究し独自の作風を確立した人物です。楽焼は、16世紀に千利休の指導のもと長次郎が創始した茶陶の最高峰とされる技法で、手びねりによる成形と低温焼成が特徴です。この黒楽茶碗は、四方に歪ませた独特のフォルムが、手に取る者の掌に心地よく馴染むよう計算されています。表面に見られる微細な窯変の景色は、焼成時の炎と釉薬の化学反応が生み出した偶然の芸術であり、二つと同じものは存在しません。「立田錦」という銘には、秋の紅葉が川面を彩る情景が込められ、茶席での会話を豊かにする詩的な趣があります。大正という時代の空気を纏ったこの茶碗は、約100年の歳月を経てもなお、その美しさを失っていません。

おすすめの用途
茶道を嗜む方にとって、この茶碗は日々の稽古や茶会で実際に使用できる実用的な道具であると同時に、精神性を深める大切な存在となります。手に取り、抹茶を点て、口元に運ぶという一連の所作の中で、作者の心と対話するような静謐な時間を味わえます。茶道具コレクターの方には、大正期の楽焼作品として資料的価値も高く、共箱とともに保管することで次世代へと受け継ぐべき文化財としての意義があります。和室の床の間に飾れば、季節の花や掛け軸と調和し、空間全体に格調高い雰囲気をもたらします。また、茶道を始めたばかりの方への贈り物としても、歴史ある作品との出会いが学びを深める貴重な機会となるでしょう。

インテリアコーディネート提案
【和モダンスタイル】
畳や障子のある伝統的な和室に、シンプルな竹の花入れや古い行灯と組み合わせることで、侘び寂びの美意識が息づく静謐な空間を演出できます。
【ミニマルスタイル】
白壁のモダンな空間に、一点物の陶芸作品として飾ることで、現代的な暮らしの中に日本の伝統美を取り入れた、洗練された佇まいを生み出すことができます。

品質・状態について
リユース品のため、新品と比較して使用感がございます。
リペア痕や経年変化による色ムラがある場合があります。
使用に伴う小傷や擦れ跡がある場合がありますが、使用に支障はありません。
写真と実物の色調に若干の差異がある場合があります。